甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病)は女性ではよく見られる自己免疫疾患のうちの一つです。甲状腺ホルモンの過剰、低下、が症状を起こしているので病院治療ではホルモンバランスを薬でコントロールする治療が行われています。しかし、甲状腺ホルモンの増減は結果であり、原因は免疫にあります。
病院治療では原因の免疫を正すということに対しては手立てが無いので「ずっと薬を飲み続けなくてはならない」ということにもなります。
症状のみならずその原因に着目して病気の解説、病院で良く行われる治療の解説をするとともに当店で根治に向けての対応を書いてみたいと思います。
コトバの整理
「甲状腺機能亢進症」、「甲状腺機能低下症」は現在、身体に起こっている症状を指し示し、「病名」ではありません。甲状腺に炎症が起こることにより甲状腺ホルモンが一時的に多くなって症状が出ている状態を甲状腺機能亢進症、甲状腺ホルモンが低下している状態を甲状腺機能低下症と言います。
「バセドウ病」、「橋本病」とは自己抗体検査の後に確定診断される病名でバセドウ病は甲状腺機能亢進症の症状が、橋本病は甲状腺機能低下症の症状が出る病気です。
❶甲状腺と甲状腺ホルモンの働き
甲状腺は喉仏の下あたりにある、蝶ネクタイのような形をした臓器で甲状腺ホルモン(T4)と言われるホルモンを分泌し、体の代謝を調節する働きをしています。そのため、このホルモン量が増えすぎると、動機、息切れや、減りすぎると全身倦怠感など体に色々な症状が引き起こすようになります。
この甲状腺ホルモンは全身の状態を感じた脳より刺激を受けて甲状腺ホルモンの生産や分泌をコントロールしています。脳から出るホルモンをTSH(甲状腺刺激ホルモン)といい、甲状腺の細胞にあるTSHを受け取る場所をTSH受容体(甲状腺刺激ホルモン受容体)と言います。
❷甲状腺の疾患 バセドウ病と橋本病
同じ自己免疫疾患でも全く逆の症状がでる
バセドウ病
バセドウ病は甲状腺のTSH受容体に対して、本来であれば細菌やウイルス等を排除するための抗体が反応して結合してしまうところから始まります。この甲状腺のTSH受容体に結合する抗体をTHS受容体抗体と言います(TRab,Tsabなどがあります)。(バセドウ病と診断されている方は血液検査結果表を見てください。TRab(TSHレセプター抗体、抗TSHレセプター抗体 と書いてあるかも)やTSabの項目があると思います)。
本来であればTHSがTHS受容体に結合して甲状腺ホルモンを放出するスイッチをonにするのですが、TRabやTSabは困ったことにTHS受容体に結合してスイッチをonにしてしまいます。
その結果、甲状腺よりT4が大量に出て全身の代謝を過剰に亢進してしまい、多汗、脈拍数増加、動悸、手足がふるえる、甲状腺が腫れる、食欲はあるが体重が減少する、イライラする、眠れない、排便の回数が増える、眼球が出てくる、等の症状が出てきます。
体内に甲状腺ホルモンが増加し、代謝が亢進しすぎていることを脳は察知しますので、これ以上甲状腺ホルモンを出さないように脳からのホルモンであるTSHを減らします。
しかし、TSHが少なくなっても、TRabやTSabという自己抗体がある限り、甲状腺のスイッチはonになっていますので甲状腺ホルモンは増加する一方となります。
免疫の狂いによって起こる、自己免疫疾患の一つです。
※バセドウ病の眼球突出について
バセドウ病の特徴的な病態の一つに眼球突出があります。甲状腺ホルモンによる代謝活性化と眼球突出と全然関係の無いように思われますが、これは増加した甲状腺ホルモンの影響ではなく自己抗体の直接的な影響によるものです。TSabと呼ばれる自己抗体は甲状腺のTSH受容体だけではなく眼球の下の筋肉に結合し炎症を起こします。その結果、筋肉の肥厚が起こり、眼球が飛び出してきてしまいます。これは甲状腺ホルモンのコントロールだけではどうにもならず、病院治療では手術するしかなくなります。
橋本病
橋本病も免疫の狂いによって甲状腺の中にあり、甲状腺ホルモンの前駆物質であるサイログロブリンと甲状腺ホルモンを合成するペルオキシダーゼという酵素に対しての自己抗体(抗サイログロブリン抗体(TgAb)と抗ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb))を作ってしまう自己免疫疾患の一つです。
その結果、甲状腺ホルモンが作られなくなり、全身の代謝が低下することによって、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重増加、便秘、かすれ声などが生じます。 女性では月経過多になることがあります。甲状腺の内部に対しての自己抗体がありますのでそこに対して自己免疫反応が働いてしまいます。その結果、甲状腺自体が破壊され、放っておくと本格的に甲状腺ホルモンが作れなくなってしまいます。
※甲状腺炎
文字通り、甲状腺に炎症が起きている状態です。橋本病を慢性甲状腺炎と呼ぶこともあります。他には無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎などがあります。甲状腺の炎症により一時的にバセドウ病のような症状(甲状腺機能亢進症)が出て、その後甲状腺内のホルモンが減ることにより橋本病のような症状(甲状腺機能低下症)が出ることがあります。感染症をきっかけに発症することがあり、これらは1~3か月くらいで自然と治ることが多いです。
❸病院の診断基準と病院治療、その実態
病院に行く方は何らかの症状があって病院に行かれていると思います。その際には問診と触診より甲状腺疾患の可能性を検討します。
その後、血液検査により以下の条件により確定診断となります。
基準値 | バセドウ病 | 橋本病 |
T3 : 2.5~5.0 | H | L |
T4 : 0.8~1.7 | H | L |
TSH : 0.34~4.0 | L | H |
TRab、TSab | 陽性 | - |
TPOab、TGab | - | 陽性 |
※T3、T4の違い
甲状腺より放出されるホルモンはT4ですが、肝臓で代謝され、より活性の高いT3に変化して全身の代謝量のコントロールを行っています。T4は甲状腺自体のホルモン生産力を、T3は症状と関連付けて考察されます。
バセドウ病の病院治療
バセドウ病は放っておくと代謝の異常活性により心不全や脳梗塞を起こし、死に至る病気です。速やかな治療が必要な病気です。バセドウ病の場合はメルカゾール、チウラジールという甲状腺内での甲状腺ホルモン合成を阻害する薬が処方されます。その結果、血液中の甲状腺ホルモンは正常値に近くなります。
また、手術で甲状腺を一部切除して甲状腺ホルモンを過剰に生産できなくする方法が取られることもあります。
橋本病の病院治療
症状の原因が甲状腺ホルモンの低下なので甲状腺ホルモンを経口投与することで症状が良くなります。チラージンという薬が処方されますので症状や血中のT3,T4の値に合わせて飲む量を変えることで血中の甲状腺ホルモン量をコントロールします。
バセドウ病・橋本病の病院治療の限界
バセドウ病の治療も橋本病の治療も飲み薬でホルモンをコントロールすることで症状を緩和する治療法が基本となります。しかし、飲み薬の影響で肝機能障害や顆粒抑制等の副作用に悩まされる事が多々あります。また、病院治療には自己抗体を減らすという手段が無いのでバセドウ病で起こる眼球突出や橋本病の自己免疫性の炎症に対しては良い手立てがありません(ステロイドを使用することもあります)。
また、手術により甲状腺切除を行うと病態が自然と落ち着いてきたときには甲状腺機能低下症になってしまいます。チラージンの投与が必要になり、橋本病で甲状腺の破壊が完全に進んでしまうと永久的に甲状腺ホルモンが作れなくなるので、やはり、チラージンの投与が必要になってしまいます。
❹当店での甲状腺疾患への対応と概念
バセドウ病、橋本病に関しては自己免疫疾患なので免疫を正し、炎症を抑えるサプリメント等を組み合わせて自己抗体の低減を目指します。症状が病院治療で改善されているようであればそのまま続けていただき、症状の改善が病院治療で不十分であるなら漢方薬を組み合わせて症状の改善を行います。
2~4週間の間隔で血液検査を通いの病院で行うと思いますのでその数値と体感をもって効果判定しつつ治療を続けていきます。
また、自己免疫疾患の特徴として患者様には冷えや瘀血(血液の流れが悪いこと)、気虚(虚弱体質)の場合が全体的に多ことより漢方薬を併用することが多いです。
❺よくある質問
バセドウ病、橋本病の発症の原因は?
自己免疫疾患全体に共通することですが、「ストレス」が一番の原因であります。夜更かしや偏食等も原因になりますので、質の良い睡眠、バランスの取れた食事というのは養生の面で必須です。(治る速さが変わります)
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)と橋本病(甲状腺機能低下症)の併発?
バセドウ病に関する自己抗体(TRab、TSab)、橋本病に関する自己抗体(TPOab、TGab)をすべて持っている人も多くいらっしゃいます。その時はバセドウ病(亢進症)の症状から発症することが多いです。しかし、両方の抗体を持っていることで橋本病へも陥りやすい。薬でのコントロールは難しくなり、メルカゾール、チウラジールで甲状腺からのホルモン放出を完全に抑えてチラージンで血中の甲状腺ホルモンを維持するという方法が取られることもあります。
橋本病の自己抗体を持っているあたりから免疫を放置しておくと甲状腺が機能不全になり、最終的には完全な橋本病に移行してしまいます。
自己抗体の量は症状と関係ある?
血液検査でみる自己抗体量はあくまでも「血液検査で引っかかる自己抗体の量」であって「自己抗体として生体内では働いていないもの」も引っかかってきます。このことより「自己抗体の量が高い」=「症状」というようにはならないようです。しかし、急に何かのきっかけで自己抗体が働き始めてしまうこともあるので自己抗体の量は低いほうが安心です
FT3が高いのだけど亢進症の症状も無いし、調子はいいんだけど?
血液検査で見るFT3は「機能のあるFT3」「機能の無いFT3(リバースFT3)」の両方を検出してしまっています。FT3の値は「基準値より離れていてもその人によってはちょうど良い値である」ことも多いようです。また、FT3は血液検査した瞬間の血中濃度を測定しています。また、チラージンなどを飲むとFT3は上がります。FT3等の数値は参考にはしますが基準値より高くても平気な人がいます。ご自身の症状・感覚を注意して観察してください。
甲状腺ホルモンの値(FT3)もTSHも高いのですがバセドウ病?橋本病?
血液検査で見るTHSは「ここしばらくの甲状腺ホルモンの状態」を見ています。それに比べてFT3は「その瞬間」を見ているので、ここで矛盾が出ることも多くあるようです。また、前述のリバースT3の体内比率が多いと生体は「甲状腺ホルモンが足りていない」と判断するのでTHSは高くなります。
バセドウ病の治療をしていたら腎機能が悪くなってきた
バセドウ病により甲状腺機能亢進症の症状が出ると腎臓への血流量が上がります。慢性腎不全の方が甲状腺機能亢進症を発症することで腎機能数値が回復したように見えることがあります。逆に甲状腺機能亢進症の治療が進むと隠れていた腎機能低下が表に出てきます。
どちらにせよ腎臓自体が回復しているわけではないですし、甲状腺機能亢進症によって腎臓へ大量の血液を送り込むことは腎臓に実質的にはダメージを与えている状態です。
甲状腺機能亢進症の治療と腎臓を保護するという意識で漢方薬やサプリメント、生活養生を行う必要が出てきます。
❻甲状腺疾患でお悩みの方へ
病院では甲状腺疾患は「薬さえしっかり飲んでいれば問題ない病気」という説明を受けられたのではないでしょうか?確かに甲状腺ホルモンのコントロールさえしていれば甲状腺機能亢進症や低下症の「症状」は、多くの方が改善されると思います。しかし、ずっと薬を飲まないといけないという事になります。また、根底にある免疫・自己抗体の存在を改善しないとバセドウ病では眼球突出、橋本病では甲状腺の機能不全が起こってきます。ステロイドを使用する場合もありますがステロイドを長期で使用することは多々のデメリットや副作用が存在します。手術が必要と言われたけど手術したくない、薬で治療中だけど明らかに体調が良くない(疲れ、吐き気等)、体調が悪いのに問題なしと言われた。
お力になれることは多々ありますのでご相談ください。